日本人の僕にとって、子供の頃の西洋料理の思い出は極限られたものしか無かった。
母親が作るライスカレーやクリームシチューが最初の西洋料理だったと思う。
ファミレスが世の中に流行した時代でした。
普通の日本人がナイフとフォークで食事をするようになったのはファミレスの功績だと思う。
父親の仕事の関係で、小さな頃からファミレスで食事をする機会が多かった。
ある大手企業が運営するファミレスの看板やネオンを作る仕事をしていたからだ。
現場で仕事をして昼飯はファミレスて済ますわけ。
当時のマネージャーさんが『キッチン見るかい?』と小学生の僕を誘ってくれたの。
マネージャーに連れられて厨房に入ると白いコックコートを着た料理長が笑いながら手招きしてくれた。
『遠藤さんとこの息子だよ』
マネージャーが話をする。
当時のファミレスは、まだ厨房に料理人がけっこういたの。
セントラルキッチンで大まかな料理は作るんだけれど、レストランの厨房でも普通に料理をしていた。
店によってはデミグラスも作ったり。
ファミレスとは言え、そこは『料理人が仕事をする場所』だった。
『食べるかい?』
料理長が小さなお皿にのせてくれたビーフシチューの味は今でも忘れませんね。
なんて美味しいんだろう!
ビックリした僕を料理長は笑いながら見ていた。
高校を卒業してから本格的に西洋料理の仕事を始めた。
毎日叱られて怒鳴られに行くのは嫌だったけれど先輩方の仕事を見るのは楽しみだった。
デミグラスは頻繁にストーブにかかっていたの。
毎日野菜のクズや牛スジを大きなフライパンで炒めては鍋で煮込んでいく。
当時は肉と言えば『牛肉』です。
後は鶏肉。
豚や羊、子牛とかも稀に使ったけれど殆どは牛肉。
だから牛スジや脂は毎日山ほど出てくる。
デミグラスを煮込みながら灰汁を丁寧に掬っていくの。
その時に柔らかく煮込まれた牛スジを味見したりしておりました。
脂とスジに少しだけ赤身が混ざった部分もあって、それがとにかく美味しいんです。
口に入れると何とも言えぬ味わいが広がる。
トロリと溶けて無くなっちゃう。
ローストビーフやハンバーグ、ステーキは勿論美味しいけれど、実は牛スジを煮込んだものが一番美味しいと思う。
野菜、赤ワイン、ハーブやスパイスの香りが混ざった柔らかでトロトロのスジ。
今もデミグラスを仕込みながら一人で楽しんでます。
そして、そこから学んだ事も沢山ある。
西洋料理やフランス料理の『あじわいの引き出し方』を自分の味覚で知った。
体に刻み込んだ。
日本人の僕にとってはカルチャーショックだったんです。
味は『つけるもの』ではなく『引き出すものである!』とゆう事を知ったんだと思う。
単独では食べることは出来ないクズ肉も、色々な力を借りて時間をかければ美味しい『料理』に変わることも知った。
引き出すこと。
力を合わせること。
焦らずに『待つ』こと。
西洋料理なんだけれども、何となく『日本人的』な考え方だとも思います。
本日はお休み。
明日も元気に頑張ります。
宜しくお願いいたしますm(_ _)m