仕込みが終わり、ディナーが始まるまでの時間に店の周りを散歩してみた。
5月も中頃を過ぎ、日も延びてきた。
日中の暑さも和らいで心地よい風が吹いている夕方。
仕事帰りのサラリーマン、お腹を空かした子供たち。
3年前この場所に移転してきた頃と大分様子も変わってきた気がする。
どこからともなく良い香りがしてくる。
子供の頃を思い出す。
近くにパン屋さんがオープンしたせいもあろう。
マーシュ亭のあるこの周辺は良い香り、美味しい香りが漂っている気がするのは僕だけだろうか?
夕方の香りや街の様子が大好きだ。
正直に話そう。
札幌に来たばかりの頃、そしてその後の十数年、どーしてもこの街が好きになれなかった。
むしろ大嫌いだったのだ。
『俺のいる場所じゃない!』
『運が悪かっただけだ』
『こんなハズじゃなかった』
とにかく早くどうにかして逃げ出したかった。
故郷の東京に帰りたかった。
それがいつの間にか札幌が、いや、今マーシュ亭のあるこの街の片隅が大好きになった。
この街の雰囲気、暮らす人々、香り、全てが心地よいと思う。
『俺の居場所はここなのかな?』
そんな風に考えるようになった。
1つの場所にいるのが嫌で嫌で仕方がなかった若い頃。
スナフキンみたいに旅をしたかった。
身のほどを知らなかった。
感謝もなかった。
自分だけが良ければそれで楽しかった。
全ては世の中のせいだと考えていた。
社会の仕組みも知らずに世を嘆いていた。
胡散臭い大人達が大嫌いであった。
東京を離れ、札幌に暮らしてからも変わらなかった自分。
きっと誰かしらがそんな僕をみて試煉を与えてくれたのかも知れない(笑)
世の潮流に流されないように生きたい。
それが僕の考えである。
だから店の『在りかた』もそうでありたいのだ。
レストランはある意味『ギャンブル』でもある。
一発当ててやろうか?
虎視眈々と狙っている奴等も少なくない。
また、常に不安定な商売だ。
世の中の流れ、流行り廃り、景気にも影響される弱い商いでもある。
わけのわからん、タイヤメーカーの出すガイドブックに右往左往しているのも何だか滑稽に見えてくる。
もちろん本人達の自由であるが…。
僕は泳がされたり踊らされるのが大嫌いな性分なのである。
何人にも左右されない、強い確固たる『何か』を自分の中に持ちたいと考えるようになったのは商売をはじめてからだと思う。
威張らず、媚びず、飄々とした生き方が理想である。
威風堂々と、肩で風を切りながら歩くつもりは毛頭無いが、飄々とした自分でありたいし、店もそうでありたいのだ。
うちがどれ程頼まれても、どんなに『美味しい話』であっても断る理由がそれである。
パーティや宴会は受けない。
また、特別な何かはやらない。
だって毎日が特別だと思うし。
同じ日なんて無いと思うし。
『当たり前の存在になりたい』
以前から考えていることであり、それは今も変わらない。
特別ではない普通の存在でありたい。
そんな店になりたいのだ。
僕はタンポポが好きである。
花の中で、とゆうか花の種類は全然分からないけれど、1番好きな花はタンポポだ。
桜は憧れ。
バラやチューリップの様に皆から特別に見られる花に興味がわかない。
ってかなれないし(笑)
タンポポは強い。
アスファルトを突き破っても生えてくる。
誰にも面倒はみてもらわない。
地力で生きているタンポポが大好きである。
自分もそう在りたいと思う。
当たり前に生きている、存在している店でありたい。
お客様あっての商売。
また独りで生きてゆくなんて無理である。
だからと言って、いつも何かに頼るのはどうか?と考えたりする。
受けた恩は返す。
常に感謝を忘れない。
これさえ守れば良いと思います。
不安で不安で仕方がない心は、常に何かに依存する弱い自分に責任があることに気が付いたのは随分と後になってからだ。
バラやチューリップや桜にはなれないが、タンポポだってよく見れば綺麗な花だと思うよ❤
本日も宜しくお願いいたしますm(_ _)m